マルチメディア推進フォーラム
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委員長ご挨拶


委員長 齊藤 忠夫

委員長 齊藤 忠夫

 2足歩行し、石器を使うヒト属は250万年前から見られる。ネアンデルタール人もホモサピエンスも25万年まえに遡るとされているが、人類はすべての生物の中で、唯一言葉を話し、言葉による協力によって地球上で繁栄することができた。言葉による意思伝達をさらに広い範囲に広め、強化するのが通信であり、人類が作る社会の将来も、情報伝達の能力の活用にかかっている。社会の発展と競争力の強化が通信と情報システムにかかっていることは、一般の人々を含め広く実感されるようになってきた。

 マルチメディア推進フォーラムは情報通信の発展のために技術とサービス、市場状況、社会的対応と法制度などを多角的に議論するフォーラムとして、1990年ころから準備を進め、1994年からは現在の名称となって、多くの方々の支援を得て、25年を超える議論の場を提供して来た。この間情報技術ではパーソナルコンピュータは高性能化し、スマートフォンを含む多様な携帯機器が現れ、活用法は激変した。通信の主要サービスはこの25年の間に、電話からインターネットへ、固定から携帯へ変化した。マルチメディア推進フォーラムでは変化の時代をどのようにとらえ多様なアプリケーションを含め産業界全体が共通の意識を持って対応して行くかについて議論できたと考えている。特に情報通信ネットワークのサービスが競争環境で行われるようになった今日、競争状況のなかでなお、ネットワーク事業者は接続されるネットワークについて相互に理解し協力しなければサービスは成立しない。そのためには多くの事業者が相互に理解するチャンネルをオープンに持つことが不可欠であり、本フォーラムラムでの議論はネットワークサービスの円滑な発展のためにも貢献していると考えている。

 コンピュータに代表される情報技術は70年前に実現したが、ムーアの法則による超小型化の進展によって社会の隅々に情報処理技術を広げてきた。コンピュータの能力は向上し、過去においては取り扱いが困難であった巨大な情報を分析して、いままで気が付かなかった因果関係を含め、われわれの知識を増やしつつある。このような技術は、すべての社会活動の基礎として広く活用されるようになっている。

 この半世紀の情報通信の進歩は半導体産業の進歩を支えたムーアの法則に負うところが大きい。通信伝送技術としては有線伝送技術への光ファイバーへの進展、6GHz以下の電波帯域の有効利用は発展の原動力であった。このような発展の原動力は50年に及ぶ技術発展の結果として飽和現象が顕在化している。飽和を乗り越えるためにはさらに幅広い技術の連携と協力が求められている。

 現代の社会生活を支える情報通信の活用はますます広がっている。多くの社会的情報を収集し得られたビッグデータから社会的に有用な情報を抽出する技術もより良い社会の形成には重要である。ビッグデータの中での個人情報の配慮についてのルールとその実践は国により異なり、これが国際競争力となって産業に反映する場面も多様に予想される。

 情報は社会の様々な場面で発生する。それぞれの場面には多様な産業がある。家庭では家庭用電気製品産業がある。エネルギーを供給する電力産業、医療事業、自動車産業、交通サービス産業など多様な産業も情報処理と通信の技術を活用しながらサービスを展開するようになっている。このような技術における通信はIoT(Internet of Things)と呼ばれているが、インターネットにはそのオープン性が悪用されるセキュリティー問題という脆弱性が避けられない。その意味ではIoTはオープンであってほしいという願いが込められた用語であるが、一般的インターネットと同じオープン性を持たせることには多様な技術開発を要すると考えられる。IoTについてはネットワークの共通の基礎を推進する立場の専門家と、それぞれの産業分野の専門家の間の幅広い討論が求められる。そのためには、技術を技術としてだけ論ずるのでは不充分で、技術を国際的視野から、社会的な側面を含めて分析し、関連する産業、法制度との整合性を含めて理解することが重要である。時には産業構造の変革、法制度の見直しを考えることも話題になろう。マルチメディア推進フォーラムは、情報通信技術の多様な発展について論じつつ、新しい市場の特性を理解した幅広い問題を考慮しながら、情報通信事業とサービスの将来を論じたいと考えている。

今日に至る情報通信技術の変革期の中で、その適切な発展のために当フォーラムの果たして来た役割は大きい。社会発展のために技術への期待は今後共ますます大きくなる。皆様のそれぞれの活動の発展のためにも、マルチメディア推進フォーラムに対する御支援をお願いする次第である。


齊藤 忠夫(さいとう ただお) 略歴

東京大学 名誉教授、中央大学 教授、トヨタIT開発センター CTO、チーフサイエンティスト。

昭和38年東京大学工学部電子工学科卒、同43年東京大学工学系大学院 電子工学専門課程修了、東京大学工学部講師、助教授、教授を経て平成13年より現職。
平成6−13年文部省学術国際局科学官併任、情報通信審議会委員(H11-14:電気通信事業部会長) (H13-16座長代理) (H15-16技術分科会長)、ユビキタスネットワーキングフォーラム会長(H14-現在)、HATS 推進会議(高度通信システム相互接続推進会議)議長(H1-現在)、IFIP TC6 日本代表(1993−現在)、IFIP日本代表(H17-現在)などを歴任。
マルチメディア推進フォーラム委員長(H6-現在)。 電子情報通信学会会長。
著書:電子回路入門(昭晃堂、昭和52年)、ディジタル通信網入門(オーム社、平成元年)等多数。
研究分野:テレマティクスとITS、モバイルマルチメディア方式、次世代インタネット等。
受賞歴:電気通信学会論文賞(昭和42年、昭和61年)、電気通信学会業績賞(昭和47年)、市村賞(昭和51年)、郵政大臣表彰(昭和60年、平成9年)、総務大臣表彰(平成17年)、IEEE Fellow、電子情報通信学会フェロー。
2006年3月

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